ランは18年間の生涯のうち、首輪を6度交換しました。
(これってかなり節約主義でしょうか?)
そのうち3個はピンク色の首輪で、赤や青よりも割高な価格に渋る両親を説き伏せて買っていた、私の『こだわりの色』でした。
ピンクは女の子だけの色、男の子は赤い首輪はしても、ピンクはつけません。
「ほら、どこからどう見ても女の子だ!」
豪華さとは程遠い雑種のランにそれなりのお洒落をさせたつもりになって
私は満足していました。
ランが息をひきとったのは9月末の明け方でした。
埋葬のため、まだ暗いうちに両親が何年か前からやっている家庭菜園の畑に
ランの遺体を運びました。
畑は高台にあり、下には田んぼがひろがっていて、とても見晴しがよいところです。
生前、ランもここに連れて来てもらうのが大好きでした。
父は畑沿いの崖にせっせとコスモスを植えたので、畑のまわりはこの時期、コスモスが一杯にさいていました。

ちょうど向こうの空が赤くなって日が昇りはじめる頃
まだ柔らかい、温もりの残るランを土の中に降ろしました。
青白い景色の中で、いつもより白く見えるランの体は
私達が摘んだ ピンク色のコスモスで埋め尽くされました。
臆病で、控えめで、穏やかで、何よりも純粋だったラン。
以前はあたりまえだった、犬という生き物の従順さや純粋さが、
今では奇跡のように思えるようになりました。
お墓を囲む満開のコスモスは、そのままランの温かさのように感じられました。
ほら、ランは女の子だからピンクがいいよ。
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