私と兄は小さい頃二段ベッドを使っていました。兄の方は途中で大人用のシングルベッドを買ってもらったので、いらなくなった方の二段ベッドは分解されて、家の裏に立て掛けられていました。
ランの犬小屋はそれらを使って父が作りました。小屋の柱の部分にちょうど二段ベッド特有の安っぽい装飾が施されていたのと、芝犬ほどの大きさのランにはちょっと大きめなサイズだったこともあって、廃材で作った割に立派なのが出来上がりました。


以前ランの犬小屋は玄関の脇に設置してありました。知らない人や慣れてない人が来ると、犬小屋から出て来てよく吠えました。こわがりな犬ほどよく吠えるそうです。
殺気立って吠えてるわけではなかったけど、その人が家の中に招き入れられるか、帰るかするまでは決して吠えるのを止めません。その点ではいくら叱っても覚えない困った犬でした。


家から家族が出て来たり、家の中の人間が玄関の方に近付く気配があれば、「なにかおやつくれるのかな?」なんて期待してか、ジャラジャラと鎖の音を立てて犬小屋から出て来ました。

 

ある日、犬小屋の玄関側の壁に小さな穴が開いてるのが発見されました。

屋外にいるランは、一日中相手をしてもらえるワケではありません。たいていの時間はひとりぼっちで犬小屋の中でじっとしています。退屈によるストレスで、土に穴を掘るように、壁をかじるなり引っ掻くなりしたのだろうと思いました。

穴は日に日に大きくなっていきました。

ある日、外に出てみると、大きくなった穴からひょっこり顔を出したランと目が合いました。頭が引っ込むといつものように彼女が犬小屋から出てきました。
それ以降、何か物音や気配がすると、穴から一端顔を出すようになりました。
小屋の中でじっとしているときも常に自分の開けた穴から外が伺える位置にいます。

ランは自分の家に窓を作ったのです。窓が必要だと思って作ったのかどうか知りませんが、ランにとってとても有効な結果が出たことは間違いありませんでした。

それが窓だということが判明すると、父はでこぼこだった穴を四角く切り抜きました。私はその周りに絵を描きました。

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