2003年8月

臆病な子馬イブ



ここ農家で私が到着する前日、ワークホースの一頭に子馬が生まれていました。イブと名づけられたその子馬は、他の農家であった他の子馬と比べるととても臆病に思えました。人間との接触にあまり慣れていないイブは私が近づくと母親のジーナの影に隠れました。ジーナはここでの働き頭で、4頭のワークホースの中で彼女とボスの牝馬ジャスミンのチームはもっとも働き者で扱いやすいコンビでしたが、出産後の数日の間、ジーナは育児休暇中ということで、牡馬のルーフェスと牝馬のジャスミンがジーナの復帰まで使用されていました。ご主人の話によると、牡のルーフェスは2頭で働いているときに仕事がキツイとすぐ手抜きをするのだそうです。ルーフェスが手抜きをするとその負担をもう一頭が補うことになります。それだからお互い手抜きをしないジャスミン・ジーナチームが一番だったのだそうです。
さて、数日もすると、ご主人はやはり働き頭を頼りとしてジーナを復帰させることに決めました。お馬の親子を引き離すとどれほどお互い動揺するか。ジーナは例年、この究極に早い子離れ(といっても2時間おきに授乳のために仕事から戻る)を経験しており、それほどの動揺は見せませんが、子馬のイブにとってはこれが初めてです。母親から引き離されて小さなストールに隔離されたイブは母親を呼ぶいななきをなかなか辞めようとしません。
ここの農家の奥さんから私はイブのベビーシッターを頼まれました。2時間の間イブをあやし続け、時にはストールの柵を駆け上がろうとするイブを制するのはなかなか簡単ではありません。何しろ重種馬の子馬ですので、すでに私の胸ほどの背たけはありますし、骨も筋肉もがっちりしています。母から引き離された不安となんとかそこを抜け出そうとする試みのためにイブの体は汗でびっしょりになりました。私も母親に早く戻ってきて欲しくてなりません。2時間はとても長く感じました。といいつつも半時間ほどの格闘の末、物音もなく静かに落ち着いてくるとイブも落ち着くことを知り始めました。私はイブが外の風の音に怯えるために、私は小さなストールの中をイブに接触したまま歩き回りました。踏みしめる藁の音が風の音を掻き消すと思ったのと、子馬に接触しつづけたのは、イブが常に母馬にくっついていたからです。その私の努力が効いたか効かなかったか、イブは私に慣れ始めたようで、不安で疲れ果てているはずの彼女はついにウトウトし始めました。ところがそこへCSAのお客さんが是非子馬を見ようと訪れ、イブはまた興奮し始めてしまいました。
長かった二時間が過ぎて、畑からワークホースが戻ってきます。ワークホースたちの蹄の音が聞こえる近さまでくると、子馬が嘶きました。それに反応して母馬が嘶きました。母馬の声を聞き、また子馬が母を呼び、それに母が応えます。二三度子馬を呼んだといっても、決して興奮することなく、馬をつなぐ位置までたんたんと移動したジーナのもとで開放された子馬が乾ききった喉ととてつもなかった不安を同時に癒します。これを一日に二度繰り返しました。