2003年5月

子牛

 

3件目の農家はスイスからカナダに広い土地を求めて移住して来たおうちでした。広い土地に乗馬用と橇用の馬を30頭の他、育成牛20頭ほど飼育していました。
牛は基本的に一年中出産していますが、私が訪れた春にもあどけない顔をした子牛がたくさんいました。
牛の品種は忘れてしまいました。スイス産の品種で、肉と乳、どちらにも適している牛であるとのことでした。
子牛はまるで子鹿のようです。このスイスの牛はいくら子鹿のように可愛いといいましても、鹿とは間違わないかもしれません。しかし、ジャージー牛という品種の子牛を見せてもらったときには、 子鹿に勝る愛らしさを感じました。

以前美智子皇后様の本が出版されたことを御存知でしょうか。
『橋をかける』 という皇后様の読書の想い出について語られた内容でした。その中で、外国の一遍の詩を引用しておられ、その『牧場(まきば)』という詩に私はひどく感動していました。 素敵な詩なので全部のせますね。
『牧場』
牧場の泉を掃除に行ってくるよ。
ちょっと落ち葉をかきのけるだけだ。
でも水が澄むまでみてるかもしれない。
すぐ帰ってくるんだから、君もきたまへ。

子牛をつかまへにいってくるよ。
母牛のそばに立ってるんだがまだ赤ん坊で
母牛が舌でなめるとよろけるんだよ。
すぐかえってくるんだから、君もきたまへ。

この子牛の部分になんとも優しい情景と、幼い子牛のあどけなさを想像していたわたしでした。
牛に餌をやるときに実感してこの詩を違った意味で納得することになりました。
それは牛の『舌力』の強さです。ほし草を巻取る舌の力に私の腕力は及びません。
そんな舌でなめられたら、そんなにか弱い生き物でなくてもよろけてしまうでしょう。
ちなみに近付いてきた牛にさせるがまま牛の頭を自分の太腿のあたりにこすりつけさせてしまったことがありました。
犬かなんかと同じつもりでいた愚かな行為でした。
スリ。スリ。
『うおゎっ!!』
激痛です。力強すぎ。牛の頭のなんと固いことか。
私の脚には大きなどどめ色の痣が浮かび上がりました。
皆様、どんなに牛がかわいくてもスリスリさせないよう気をつけてくださいね。すごく痛いんで。


余談
この家においていただいた間は毎食チーズ三昧でチーズ好きの私はとても幸福でした。 チーズは主にスイスチーズ(穴が開いてるかわいいやつ)ですが、カマンベール系もよく食べました。
あるときはカマンベールチーズをフライしたやつを丸のまま1人一個割り当てられました。嬉しさ半分、そのカロリーにおびえました。肉体労働にかこつけて、以前にも増し、食が太くなってしまっていました。