2003年4月

家畜の運命

 

四月には一ケ所目の農家からやや南に下った街にある小さな趣味牧場におりました。ジェニーという女性がこのファーム(牧場)のオーナーでした。彼女は教職を定年、御主人と離婚後都会から引き上げ、今の場所に2000坪ほどの敷地を買って、田舎暮しをはじめました。幼い頃から乗馬に親しんだジェニーは数頭の乗馬用の馬を飼育していました。ここでした仕事はほとんど馬糞拾いでした。馬と同じ敷地で作業していれば、作業中の私にちょっかいを出しに来る馬がいたりしますので、楽しい仕事でした。それに常に2匹のゴールデンレトリバーの女の子がおもちゃのボールを奪い合いながら、私のあとを着いてまわっていました。

ある日ファームの奥さんが『明日の朝銃声が聞こえるわよ。』といいました。
隣の農家が飼っている牛2頭と豚3頭を潰すというのです。
次の朝隣の農家にいってみると人がたくさんいて、大きなドラム缶にはお湯がぐつぐつ煮立っていました。
人がたくさんいたのは、親戚やこどもの家族がその農家に集まっていたからです。ちょっとした収穫祭のようなものなのでしょう。お湯は豚の毛を落とすのに使うそうです。
すでに牛一頭の解体が終わり開かれた牛肉がクレーンで吊る下げられていました。
牛や豚は銃殺されます。銃殺するときには脳天に弾を一発でしとめるそうです。打ち損なっても、そう何発も打たないそうです。余分な弾を打てば打つ程、動物の脳からアドレナリンだかなんだかの物質が出て、肉が固くなってしまうのだそうです。
小さな囲いの中には次の順番を待っている牛がいて、おびえていることが伝わってきました。
囲いの外にはすでにクレーンでつる下げられている牛の頭と足首が残っていました。
その牛は、いつか私が石拾いをしていたときにフェンス越しにいた牛でした。
小さな牧場なので牛も2-3頭しかいなかったので見分けがつきました。
私が石を拾うために移動する度、その牛もフェンス越しのままですが着いてくるので、「お前はなんでついてくるんだい?」と話しかけたことがありました。牛はとても好奇心の強い生きものだということをその時知りました。