8月10日

最後の年


ゴールデンウイーク以来の帰省だった。
帰る前から、ランの食欲のないことは聞いていた。
家に着いて、ランのところへ行ったら、驚くほど痩せていた。
もう以前から痩せていたのかもしれないが、こんなに年をとっても、
衣替えの毛の抜け替わりはしっかりしており、
ボリュームのない夏の毛におおわれた体は骨と皮だった。

タイルの上に腰をおろすときは慎重におそるおそる後ろ脚をくずす。
五年程前に肛門に腫瘍ができて、一度手術している。
また、ちょっとずれたところに同じのができているのかもしれない。
暑いので庭に水をまいたあと、ランの体を水で洗う。
今ではブラッシングも痛がってあまりさせないから、
そっとなでるように洗う。
毛の下にはいくつもの腫瘍ができている。
老犬特有の皮膚疾患で、6年前に始めて見つけた時は皮膚癌かと思ってとても慌てた。
背中をなでると背骨のひとつひとつがわかる。
来年の夏はないかもなと思う。
今年の冬から1年間ランとは会えない。この具合だともう一夏超えるのは難しそうだ。
犬としての寿命を超えてしまっているので、歯は大きな犬歯以外はすっかりすり減ってほとんど無くなってしまっている。
そんな具合でも、散歩に出ると
ちょっとぎくしゃくしてるけど、嬉しそうに跳ねてみせる。
散歩に出て、ランがウンチをするととても嬉しい。
前日よりもウンチが大きくて、昨日よりたくさん食べられたんだと思う。
ランが来た時私は小学生だった。
私はもうオバサンと呼ばれてもおかしくない年になったけど、
中身はあの頃とほとんどかわらず愚かなままだ。
それなのにあのとき子犬だったランはその生涯の終わりギリギリのところにいる。
ランの一生は犬として不幸だったのではないかと申訳なく思う。
散々ないがしろにしてきたように思う。
いつも足もとに体をすりつけて慕ってくるこの犬を当たり前の犬だと思っていた。
名犬でなくては特別でないと思っていた。