2004年8月

ノーザンライツ!

夜の仕事に馬への餌やりがあります。諸々の作業で1時間以上かかります。氷点下20度なんて、日本にいた頃は想像もできませんでしたが、フリース2枚重ねた上に風を防ぐための薄いウインドブレーカー、それくらいの装備で外の作業は我慢できました。もちろんジーンズの下に冬用の長下着は必需品です。
夜の9時ごろ作業開始。夏の間は夜10時まで明るい場所ですが、冬は月明かりのない日は見事に真っ暗闇、懐中電灯の明かりだけを頼りに作業をしていきます。
今日は寒いな〜と感じる日、東の空に緑のオーロラ(ノーザンライツ)が現れることがありました。それはぼんやりカーテン状になっているときもありますが、ほとんどの場合は暗い夜空に浮かぶ靄のようでした。初めて見たときは「もしやあれが?」と興奮しましたが、遠くの空に浮かぶほの暗い光は日本で有名なレインボーカーテンからはボリューム不足でした。



ある夏の日でした。馬、犬、猫、植物の世話、お婆さんのベッドの準備を手伝って、私のすべての役目が終わるのはだいたい夜の11時半、お婆さんの娘さんが帰宅するのは、午前1時過ぎでした。いつものように看護士の仕事から遅く帰宅してきた娘のJさんがベッドで眠っていた私を起こしました。
「今ノーザンライツが出てるよ!」
小さなものであればわざわざ寝ている私を起こしたりしません。私は慌てて上着を着込むと外へ出ました。
夏なのに外気は息が白くなるほど冷え込んでいました。ポーチの階段を駆け下りて空を見上げると、空全体に白いカーテンが浮かんでいました。まさにノーザンライツの真下というのか、頭上から放射状に降り注ぐように現れているノーザンライツは、噂どおり大きく脈打つように変化しました。
Jさんが寝ていたお母さんを車椅子に乗せて外へ連れ出し、3人一緒に空を見上げました。Jさんもそういった活発な動きをするノーザンライツはめったに見たことがなかったそうです。
ノーザンライツは出たと思ったら消えてしまう、儚いものとして聞いていましたが、それはしばらく消えませんでした。肌寒さに耐え切れず部屋に戻ってベッドに入ったあとも、つい何度も起き出してみては窓から夜空を確認しました。動き続ける光の柱の帯はずっと現れ続けていました。
いつかオーロラを見てみたい、カナダに行こうと決めたとき、そんな夢を抱いていました。
私が観たのは鮮やかなカラフルバージョンではありませんでしたが、頭上から自分たちを包み込むように現れたノーザンライツに出会えたことは、私の大切な思い出の一つになりました。