2004年10月

コヨーテの誘惑


犬がコヨーテに強い執着を見せることはお話しました。
平和な晴れ渡った冬の朝、犬を連れて馬の餌やりに出ての作業中のことでした。
作業をほとんど終えた私は今日連れ出した犬を呼びました。
犬の名を呼びながら、白い景色の中にあるはずの茶色い犬の姿を探します。「あ、いた!」
ウォルドーは来ません、立ち止まっている彼の視線の先には、
しまった。雪原で佇んだ一匹のコヨーテがじっと彼に視線を返していました。
「ウォルドー、いけないよ!こっちへおいで!」
無駄かもしれないけれど、一応呼び戻してみます、
ウォルドーの進んだ方向は私とは反対方向、もちろんコヨーテのいる方向でした。
それと同時にコヨーテが走り始め、それをウォルドーも追いかけます。
コヨーテは少し走ると立ち止まります。ウォルドーはそんなコヨーテの行動にに少しためらいながらも、小刻みに立ち止まりつつ、結局追いかけていきます。
私は主人から犬にコヨーテを追いかけさせないように言われていました。コヨーテの群れにおびき寄せられたあげく、ふくろにされて哀れ彼らの食料に。それがあり得ることかどうかは定かではありませんが、犬がどうなってしまおうと、一度野生動物を追いかけはじめた犬(特に今回連れていた犬)を止められないのは主人も知っていたし、私もわかっていました。
戻ってこないとわかっている犬を仕方無く責任感から追いかけます。
憎らしいのは、コヨーテは少し行くと立ち止まって、犬をからかうようにオイデオイデするところでした。
「ホホホ、こっちよ。 ホホホホ」
犬が自分を追うのを確かめるように、立ち止まっては振り向いて様子を伺いつつ逃げていくのです。動物博愛主義の私でもこんなときは銃をコヨーテに向ってぶっ放したいという衝動を覚えました。
私とウォルドーの間はどんどん開いていきます。
コヨーテの誘いにひっかかった馬鹿なオス犬は、ひたすらコヨーテを追いかけていきます。
隣の家の放牧地にまで入って、雪の中をもうかなり来てしまっていました。
戻ってこい、それ以上行ってはいけないという命令にちょっと戸惑ったあげく、結局またコヨーテを追って更に遠くの家の放牧地に入ってしまった犬を私はいい加減あきらめて家の方へ戻ることにしました。重い気持ちで主人に犬がコヨーテを追っていってしまったことを話しました。それから1時間もしないうちにウォルドーは家の前に戻ってきました。
ドアの前でスタンバッっているウォルドーのために扉を開けてやりました。
「今日は久しぶりにエキサイティングな朝だったぜ♪」
「そうかいそうかい。よかったねウォルドー。」
その後、外出が他のどの犬より大好きなウォルドーは数日間の外出禁止処分をくらいました。


お気に入りの椅子に座るWaldo(ウォルドー)のおなじみの姿