2005年6月1日

Wisdom of Life


私がカナダで体の不自由なお婆さんのお手伝いをしながら生活していたとき、お婆さんの娘さんはクリスマスのプレゼントにお婆さんに本を贈りました。それはメッセージブックでした。タイトルは「人生の知恵(名言と訳すのかな?)」です。お婆さんはクリスマスの前に89歳になったばかり、昨年手術した乳がんが肺に転移を起こしているのを知らされていました。今年は最後のクリスマスなるであろうこと二人とも知っていました。お婆さんは痴呆の影響か、数ヶ月ほど前から習慣だった読書をほとんどしなくなりました。最初の頃は、何度も最初の数ページを読み返していましたが、ストーリーを辿ることができなくなってしまったようでした。
もう何年も前に、体が不自由になって、歩くことができなくなりました。やがて、関節痛がひどくなり、手が不自由になりました。難聴から、お客さんの会話も聞き取りにくく、大好きだったクラシックの音楽も不快に聞こえるようになりました。脳梗塞を患って、残されていたわずかな自由さえも奪われました。日常会話で違和感を感じることはほとんどありませんでしたが、物事を筋道だてて追っていくことができなくなり、読書ができなくなりました。誰もが驚く、生ける辞書のような彼女の語彙力は、それまでの読書量を物語っていました。娘さんは毎日現実に失望する母親を元気付ける努力をしていました。もちろんその場ではお婆さんも明るく振る舞います。娘さんをとても愛していましたから。でもお婆さんは早く死を与えられるのをひたすら待っていたようです。

小説を読むことのできなくなった母の暇つぶしになると思ったのでしょうか、娘さんはお母さんへのプレゼントの中に、綺麗な風景画の挿絵の入った、短文からなるメッセージ集を送ったのです。お婆さんは年明けに衰弱が激しくなって一時入院をしました。私はお婆さんが手に取ることなくクリスマスツリーの根元に放置さてたままになっていたその本を拾い上げ、娘さんに言いました。「人生の知恵」なんて、もうすべて経験した彼女には必要ないのかな?
娘さんはそんな私の言葉に少しカチンとしたように言いました。「ママにだってわかってないことはたくさんある。」
母子としてできるだけ誠実に、深くいたわり合いながら暮らしてきた二人の間にも複雑な心境があったに違いありません。

今日その「wisdom of Life」から自分がノートにメモしておいた文章を見つけて、お婆さんの辛かった晩生や、彼女を支えてきた娘さんの努力のことを思いました。

↑一生かけて実践できるかな