2007年4月

果樹へのあこがれ


私の父はやたらと果樹を植えたがる。
果樹は病気や害虫がつきやすくとても難しいのに、植えさえすれば美味しい実がなると思っている子供のような発想にあきれる。1昨年から家庭菜園に手を出し始めた私は、畑にまた果樹が増えていることに気づいた。
既に畑に植えられている梨の木は春にはかわいらしい白い花をつけた。
が、その後おぞましい変化をとげた。
夏頃にはすべての葉の片面に小さな粉をふいたイソギンチャクのようなものが付着していた。
その気味の悪いイソギンチャクが付着したところはやがて真っ黒に腐って落ちて、梨の木の根元の草はべとべとになった。
それらは赤星病であることが最近やっとわかった。
果樹を植えた主である父はそれを調べようともしなかった。

かつて畑にはりんごの木も植えられていて、もう5年はたっていたのに実がなったことは一度もなかった。
いつだったか畑の垣根を切りにいったときのことだ。
まるで荒野に立つ枯れ木のようなリンゴの木を見やると、枝という枝に真っ黒い巨大なイモムシがついていた。
葉っぱはそのイモムシに食べつくされて、イモムシの方は大人の中指ほどに肥え太っていた。
私は思わず垣根のドウダンを切っていたハサミでそのイモムシをチョキンとまっぷたつにしてしまった。
そしてもう1匹チョキン。
生き物の殺生が大嫌いである自分がチョキンチョキンイモムシを殺してしまった。
全体がイモムシに覆われた枝は、枝ごとちょん切って、コンポストボックスの中に入れてフタをした。蒸し殺しだ。
自分がこんなサイコキラーになってしまうなんて恐ろしい。
翌年そのリンゴの木は完全に枯れていた。


果樹は理想郷においては、春には白く可愛らしい花を咲かせ、ほったらかしにしておいても、秋には美味しく美しい実をたわわに実らせる。
だけど現実世界でほったらかしにしておくと、不気味なイソギンチャクが葉を覆ったり、葉が数枚しか残っていない枝に巨大な毛虫やイモムシが実るのだ。
実が実る秋にには一足早くまる裸の枝が真冬の面持ちだ。
現実主義者の父であるのに、果樹についてだけは永遠に夢見る子供だ。